10m歩行試験(10m Walking Test)についてまとめます。
目次
目的
歩行速度を毎秒メートルの単位で評価します。
対象
過去の研究対象者は幅広く、脳卒中、パーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病、脳腫瘍、小児神経筋疾患、切断、地域高齢者などがあります。
方法
10m歩く時間をストップウォッチを用いて測定します。
特性
検査方法 | 観察 |
検査必要時間 | < 5分 |
必要な機器 | ストップウォッチ
10m分かる目印 |
必要なトレーニング | なし |
コスト | 無料 |
カットオフ
脳卒中患者においてカットオフが確認されています。
0.4m/s未満の患者は、移動が屋内歩行にとどまることが多い
0.4〜0.8m/sの患者は、一部屋外歩行可能
0.8 m/s以上は、屋外歩行自立(ショッピングモールの移動など含め)
歩行速度は歩行能力と相関していることが確認されています。(Perry et al、1995)
歩行速度が改善しより上のカテゴリーに属すると、それに伴い生活活動範囲は拡大し患者のQOLが改善します。(Schmidら、2007)。歩行速度を以て歩行能力を予測する方法は患者を層別化する信頼できる方法であると確かめられています(Bowden et al、2008)
※脳卒中患者の歩行予測指標としてStroke2017年2月号に歩行速度のみに依らない指標が掲載されています。後日記事とします。
信頼性(そのテストが安定していて正確であるか)
内部整合性
未確立
再テスト信頼性(同一測定者が同一被験者にテストを行った時に同じ結果になるか)
神経筋疾患を有する小児
優れた再テスト信頼性(ICC = 0.91)が認められています。(Pirpiris、2003)
健常者(成人)
快適歩行速度に対する優れた再テスト信頼性(r = 0.75-0.90)が確認されています。(Watsonら、2002)
快適歩行速度と最速歩行速度の両者において優れた再テスト信頼性(ICC = 0.93-0.91)があることが確認されています。(Bohannon、1997)
大腿骨頚部骨折患者
優れた再テスト信頼性(ICC = 0.823)があることが確認されています。(Hollmanら、2008)
パーキンソン病患者、またはパーキンソニズムを有する患者
快適歩行速度で優れた再テスト信頼性(ICC = 0.96)があり、最大歩行速度に関しても優れた再テスト信頼性(ICC = 0.97)があることが分かっています。(Steffen&Seney、2008)
脊髄損傷患者
優れた再テスト信頼性が確認されています。
Bowden &Behrman(2007)
ICC = 0.97
Lamら(2008)
r = 0.983
慢性期脳卒中患者
優れた再テスト信頼性が確認されています。
Collen(1990)
ICC = 0.95〜0.99
Flansbjerら(2005)
快適歩行速後:ICC = 0.94
最大歩行速度:ICC = 0.97
外傷性脳損傷患者
優れた再テスト信頼性が確かめられています。
VanLooら(2004年)
快適歩行速度: ICC = 0.95
最大歩行速度: ICC = 0.96
Watsonら(2002)
r = 0.97-0.99
検者内・間信頼性(同じ人が誰にやっても、異なる人が同じ検査をやっても同じ結果になるか)
健常者(成人)
優れた検者間信頼性(ICC=0.980)が確認されています。(Wolfら、1999)
脊髄損傷患者
Van Hedelら(2005)
優れた検者内信頼性が確認されています。r = 0.983、p <0.001
優れた検者間信頼性が確認されています。r = 0.974、p <0.001
Scivolettoら(2011)
優れた検者内信頼性が確認されています。ICC > 0.95
優れた検者間信頼性が確認されています。ICC > 0.98
脳卒中患者
Collenら(1990)
優れた検者内信頼性が確認されています。 ICC = 0.87~0.88
Wolfら、(1999)
優れた検者間信頼性が確認されています。ICC = 0.998
外傷性脳損傷患者
Tyson&Connell(2009)
優れた検者間信頼性が確認されています。ICC = 0.99
妥当性(そのテストが測定すべきものを測定しているか)
基準関連妥当性
併存的妥当性(他のテストとどの程度関連性があるか)
ー
予測的妥当性(テスト後の変化等をどれだけ適切に予測できるか)
多発性硬化症患者
Paltamaaら(2007)
快適歩行速度とセルフケア自立度との間に良好な相関が確認されています。r=0.60〜0.87
快適歩行速度と移動自立度との間にに良好な相関が確認されています。r=0.34~0.74
快適歩行速度と家庭生活との間に良好な相関が確認されています。r=0.34~0.81)
脳卒中患者
Tyson&Connell(2009)
日常生活の各要素と優れた相関が確認されています。r=0.76
Barthel Indexとの優れた相関が確認されています。 r=0.78
構成概念妥当性(テストしようとする概念をどれだけ適切に反映しているか。 )
大腿骨頚部骨折患者
(Lathamら、2008)
6MWTと優れた相関があります。 相関係数= 0.82
下肢筋力と適切な相関があります。 r = 0.51
股関節痛との相関は低いです。 r = -0.23
脳卒中患者
(Wolfら、1999)
Berg Balance Scaleとの良好な相関関係が確認されています。r = 0.627
Functional Reach Testとの適切な相関関係が確認されています。r = 0.349
(Flansbjerら、2005)
快適歩行速度と以下それぞれに優れた相関・逆相関があります。TUG(ICC = -0.84)、階段昇り(ICC = -0.81)、階段降り(ICC = -0.82)、6MWT(ICC = 0.89)、(ICC = -0.84)、
最大歩行速度と以下にそれぞれ優れた相関があります。6MWT(ICC = 0.95)、TUG(ICC = -0.91)。
応答性(変化した時にその変化を確認できるか)
脊髄損傷患者
(Lamら、2008)
損傷後1〜3ヶ月の間において、意味ある変化を確認できる。effect size= 0.92
損傷後3〜6ヶ月の間において、意味ある変化を確認できる。effect size= 0.47
(van Hedelら、2006)
10MWTは、受傷後1〜3ヶ月の間では応答性良好。P <0.001
10MWTは、受傷後3〜6ヶ月の間では応答性良好。P = 0.005
10MWTは、受傷後6ヶ月以降では、応答しない。 P = 0.91
10MWTは、受傷後6ヶ月時点において、WISCI IIスコア≧20を達成した患者ににおいて、歩行改善の検出においてWISCI IIよりも反応性が高いことが判明しています。
脳卒中患者
(Pereraら、2006)
小さいが有意な変化として確認できるのは 0.05m / s です。
実質的に有意な変化として確認できるのは 0.10m / s です。
床・天井効果
10MWTは天井効果を示しませんが、BBSで得点を持つ脊髄損傷患者においては、37.5%の患者に天井効果が確認されました。(Lemay&Nadeau、2010)
臨床上意味のある最小変化
脳卒中患者
Pereraら(2006)
小さいが有意義な変化量 0.06m / s
実質的に有意有意義な変化量 0.14m / s
Tilson(2010)
急性期脳卒中患者において 0.16m / s
推奨度
米国理学療法士協会において、
脳卒中専門部会は、急性期~維持期まで全ての時期において、10MWTを利用することを強く推奨しています。
脊髄損傷専門部会は、急性期~維持期まで全ての時期において、10MWTを利用することを強く推奨しています。
パーキンソン病専門部会は、Hoehn and Yahr stage Ⅰ~Ⅲまでの患者には10MWTを強く推奨しています。Ⅳの患者には推奨し、Ⅴの患者には推奨していません。
そして、それら全ての専門部会は学生に10MWTについて学ぶことを強く推奨しています。
またそれら全ての専門部会は介入研究での利用に10MWTが適していると判断しています。
まとめ
時間と場所も取らず、評価のための訓練も必要なく簡便に実施できる10MWTですが、多くの疾患において非常に優れた評価指標となっています。学生の皆さんはぜひしっかり覚えて臨床で活用できるようにしましょう。
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