6分間歩行試験(6 Minute Walk Test)についてまとめます。
目次
目的
全身持久力を評価します。
最大下運動負荷試験として6分間で歩行した距離を測定します。
対象
研究対象とされた疾患は幅広く、アルツハイマー病、高齢者、心不全、多発性硬化症、パーキンソン病、肺疾患、変形性関節症、脊髄損傷、脳卒中など様々です。
方法
アメリカ胸部学会によるマニュアルを和訳(翻訳;筆者)したものを以下に紹介します。
①テスト前2時間以内の強い運動は避け、ウォーム・アップをしてはいけません。日内変動を避けるため、出来るだけ1日の同じ時間に測定する必要があります。
②少なくともテスト前10分間は椅子に座り安静にし,禁忌事項の確認、バイタルサイン(脈拍,血圧など)を測定し記録します。衣類や靴も確認しましょう。記録用紙に必要項目を記録します.
③次のようなオリエンテーションを行います。
「この試験の目的は、できるだけ6分間歩くことです。あなたはこのコースを往復します。 6分という時間は、歩き続けるには長い時間ですが出来るだけ頑張ってください。息苦しかったり、疲れたりすれば、ゆっくり歩いても良いですし、立ち止まっても休むことも出来ます。壁にもたれかかって休んでも良いですがが、できるだけ早く歩行を再開してください。カラーコーンまでたどり着いたら素早く方向転換し歩き続けてください。私が見本を見せます。」
④実際に検査者がやってみせます。
⑤歩行開始直前には,ベースの呼吸困難感と全身疲労感をBorgスケールで測定します。
⑥テスト直前に、できるだけたくさん歩くテストであること,走ってはいけないことを再度確認します。
※検査者は一緒に歩いてはいけません。
⑦検査開始後1分で次のように伝えます。
「上手く歩けていますよ。 残りは5分間です。」
2分経過したら、次のように伝えます。
「今の良い調子を維持してください。 残り4分です。」
3分経過したら、次のように伝えます。
「よく歩けています。残り半分です。」
4分経過したら、次のように伝えます。
「今の良い調子を維持してください。 残りは、あと2分です。」
5分経過したら、次のように伝えます。
「よく歩けていますよ。残りはあと1分です。」
残り15秒になったら、次にように伝えます。
「もう少しで止まってくださいと言います。そうしたらすぐに立ち止まって私が来るのを待ってください。」
6分経過したら次のように伝えます。
「止まってください。」
⑧終了後、対象者が立ち止まった場所に目印を付けます。対象者が疲労しているようであれば、椅子に腰掛けてもらいます。
そして歩行後のBorgスケールにて呼吸困難感と全身疲労感を測定します。さらに、総歩行距離を記録します.
そして、こう質問します「もしこれ以上歩けないとしたら、何が一番の原因ですか?」
⑨テストを頑張ったことを褒め、必要なら水分補給を促します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
テストにおける注意点として以下のような記載もあります。
検査中は、マニュアルに示した以外の励ましの言葉・ボディーランゲージを使用してはいけません。
テスト中に患者が歩行を中断、また休息を必要としたら、「壁に寄りかかって休憩して構いません。歩けそうなら再開してください。」と声をかけます。
止む無く6分経過しないうちに中断する場合には、対象者を椅子に座らせて、中断までの時間、テストを中止しなければならなかった理由を記載します。
※原著には検査者が一緒に歩行してはいけない、また運動中に絶えずSpO2測定をしていはいけない、SpO2測定をするために対象者と歩行してはいけないと記載があります。しかし、これは患者さんの状態により柔軟な対応が必要かと思われます。少なくとも私の病院ではベースの肺疾患がかなり進んでいる方や運動器不安定症が併存し転倒リスクが少なくない患者さんが対象となることも多いです。そのような方は斜め後ろから付いて歩いています。
特性
検査方法 | 観察 |
必要時間 | 10分~20分 |
必要な機器 | ストップウォッチ、カウンター、折り返し地点のコーン、ホイールメジャー(あれば)、椅子、血圧計、パルスオキシメーターなど |
必要なトレーニング | なし |
コスト | 無料 |
カットオフ
(Menard-Rotheら、1997)
80 m/分(1.33 m/秒)で 332 m 以上の距離を歩くことが出来れば、公共(一般社会)での歩行者として自立可能。
信頼性(そのテストが安定していて正確であるか)
内部整合性
未確立
再テスト信頼性(同一測定者が同一被験者にテストを行った時に同じ結果になるか)
アルツハイマー病
(Riesら、2009)
すべての参加者にとって優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.982-0.987)
高齢者
(Haradaら、1999)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(r = 0.95)
(Steffenら、2002)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.95)
変形性股・膝関節症
(Kennedyら、2005)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.94)
脳卒中(急性期)
(Fulkら、2008)
参加者全体において優れた優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.862)
介助歩行者において優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.97)
自立歩行者において優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.80)
歩行補助具を有する者でも優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.914)
脳卒中(慢性期)
(Engら、2004)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.99)
最大酸素摂取量に対して優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.99)
(Flansbjerら、2005)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.99)
(Weversら、2011年)
屋外において、優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.96~0.98)
外傷性脳損傷
(Mossberg、2003)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.94)
(VanLooら、2004年)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.96)
パーキンソン病
(Steffenら、2008年)
優れた再テスト信頼性が確認されました。(ICC = 0.95-0.96)
検者内・間信頼性(同じ人が誰にやっても、異なる人が同じ検査をやっても同じ結果になるか)
アルツハイマー病
(Tappenら、1997)
優れた検者間信頼性が確認されました。(ICC = 0.97-0.99)
優れた検者内信頼性が確認されました。(ICC = 0.76-0.9)
脊髄損傷(維持期)
(Scivolettoら、2011)
優れた検者間信頼性が確認されました。(ICC = 0.99)
優れた検者内信頼性が確認されました。(ICC = 0.99)
(van Hedelら、2005)
優れた検者間信頼性が確認されました。(r = 0.97)
脳卒中(急性期)
(Kosak&Smith、2005)
十分な検者内信頼性が確認されました。(ICC = 0.74)
適切な検者間信頼性が確認されました。(ICC = 0.78)
妥当性(そのテストが測定すべきものを測定しているか)
基準関連妥当性
併存的妥当性(他のテストとどの程度関連性があるか)
高齢者
(原田ら、1999)
以下の試験と適切な併存的妥当性があることが確認されました。
30秒椅子立ち上がりテスト(r = 0.67)
立位バランス(r = 0.52)
歩行速度(r = -0.73)
脊髄損傷
(Lamら、2008)
以下の試験と優れた併存的妥当性があることが確認されました。
10m歩行試験(r = -0.95)
以下の試験と適切な併存的妥当性があることが確認されました。
Timed Up and Go(r = -0.88)
以下の試験とは併存的妥当性が低いことが確認されました。
WISCI;Walking Index for Spinal Cord Injury II(脊損者歩行指数)(r = 0.60)
(van Hedelら、2005)
以下の試験と優れた併存的妥当性があることが確認されました。
Timed Up and Go(r = -0.88)
10m歩行試験 (r = -0.95)
以下の試験と適切な併存的妥当性があることが確認されました。
WISCIスコアが比較的高い(自立歩行)(r = 0.64)
以下の試験とは併存的妥当性が低いことが確認されました。
WISCIスコアが比較的低い(介助歩行)(r = -0.22)
脳卒中(急性期)
(Kosak&Smith、2005)
以下の試験と優れた併存的妥当性があることが確認されました。
2分間歩行試験 (r = 0.997)
12分間歩行試験(r = 0.994)
脳卒中(慢性期)
(Flansbjerら、2005)
以下の試験と優れた併存的妥当性があることが確認されました。
Timed Up and Go(r = -0.89)
10m歩行試験:快適歩行速度(r = 0.84)
10m歩行試験:最大歩行速度(r = 0.94)
予測的妥当性(テスト後の変化等をどれだけ適切に予測できるか)
COPD
(Szekelyら、1997)
肺切除術を受けた患者で手術前に200m以上歩行困難、安静時PaCO 2 > 45である患者にとって、術後の各種アウトカムや死亡率の最も良い予測因子であったことが確認されています。(特異度= 84%、感度= 82%)
入院期間との適切な相関があることが確認されています。
術前6MWT(R = 0.32)
術後6MWT(R = 0.40)
構成概念妥当性(テストしようとする概念をどれだけ適切に反映しているか。 )
ー
応答性(変化した時にその変化を確認できるか)
脊髄損傷患者
(van Hedelら、2006)
受傷後3および6ヶ月時点において、急性期時点には歩行能力が低かった不完全対麻痺患者の歩行能力改善を検出することができた。WISCI またはLEMS(ASIAの下肢筋力スコア)では検出できなかったことから6MWTに有用性がある事を示す。
(Lamら、2008)
不完全対麻痺患者において
受賞後1~6ヶ月の範囲では歩行能力変化を検出できた。
受傷後6〜12ヶ月の範囲では歩行能力の改善を検出できなかった。
床・天井効果
未確立
臨床上意味のある最小変化(最小可検変化量)
COPD
(Rasekabaら、2009年)
54m
高齢者および脳卒中患者
(Pereraら、2006)
50m
(Tang、Eng、&Rand、2012)
34.4m
推奨度
米国理学療法士協会において、
脳卒中専門部会は、急性期~維持期まで全ての時期において、6MWTを利用することを強く推奨しています。
脊髄損傷専門部会は、急性期~維持期まで全ての時期において、6MWTを利用することを強く推奨しています。
パーキンソン病専門部会は、Hoehn and Yahr stage Ⅰ~Ⅳまでの患者には6MWTを強く推奨しています。Ⅴの患者には推奨していません。
脳卒中、脊髄損傷、パーキンソン病、多発性硬化症、外傷性脳損傷専門部会は学生に6MWTについて学ぶことを強く推奨しています。
またそれら全ての専門部会は介入研究での利用に6MWTが適していると判断しています。
参考データ
平均値
慢性心不全
(Rasekabaら、2009)
310〜427m(重症度に応じて)
COPD
(Rasekabaら、2009)
238〜388m
(Casanovaら、2007; Szekelyら、1997)
平均歩行距離:380m(160〜600mの範囲)
地域の高齢者
(Steffen et al、2002)
60〜69歳:男性572m、女性538m
70〜79歳:男性527m、女性471m
80〜89歳:男性417m、女性392m
脳卒中(慢性期)
(Weversら、2011年)
408~422m(測定方法などのためばらつきあり)
まとめ
10m歩行試験と並び、簡便かつ重要な歩行評価方法となります。ぜひ、活用していきたいものです。
コメントを残す