脳卒中患者の歩行予後予測について

 

脳卒中患者さんにおいて、訓練中に歩けるかどうかは重要ですが、それよりも自宅退院した後に歩けるかどうかというのはもっと大切です。生活機能の再建がリハビリテーションの目的ですから。

2017年2月のStrokeという雑誌に、以下の論文が掲載されました。

Predicting Home and Community Walking Activity Poststroke

日本語訳すると、『脳卒中患者の自宅・地域における歩行能力予測』といったところでしょうか?George Fulk氏が筆頭著者です。この方、理学療法士です。米国のクラークソン大学の教授とのこと。大学のホームページにご尊顔が掲載されておりました。

 

論文の内容に入る前に

まず、脳卒中患者の歩行評価をどのように行うべきかという、基本的かつ重要なクエスチョンがあります。もちろん、様々な方法があります。日本の理学療法士であれば、”動作観察”が多いでしょうか?一方、欧米の理学療法士の多くが、歩行速度を測定することで歩行能力評価を行うそうです。例えば、ある調査1)では、3人に1人の理学療法士が脳卒中患者の歩行は、歩行速度の測定をもって評価を行うと答えています。

なぜ歩行速度で脳卒中患者の歩行能力をみるのか?

これは、Perryさんたちが発表した研究2)のせいと言えます。快適歩行速度を用いて、生活範囲が屋内にとどまる(< 0.40m/s)、限られた範囲の外出が可能(0.40-0.80m/s)、制限なく外出可能( >0.80m/s)の3つに分類することが出来るということを発表したためです。

もし、歩行速度単体で、そのような重要なアウトカム予測が出来るのであれば、これは使わない手はありません。しかし、本当にそれだけで予測できるのか現場にいて直接患者さんを見ていると怪しいと思いませんか?私もそんなに単純なのかと思いました。同様の疑問は、日本の理学療法士にとどまりませんでした。この歩行速度における歩行能力予測は議論を呼び、論文上で議論がかわされておりました。最終的には、歩行速度の改善が患者さんのQOLを改善することが判明し、この歩行速度で予測する方法は一定の地位を確立することになりました。ですが、依然として、実際の歩行能力を反映していないのではないかという指摘がされておりました。

本論文の内容

はじめに

Perryらの歩行カテゴライズの方法(0.40m/s、0.80m/sで分ける)に関しては、いくらか批判的な意見があります。近年では、工学分野での発達のお陰(ウェアラブルデバイス)で、正確に、自宅や地域における活動量を計測できるようになったため、2つの大規模研究から得たデータを用いて、地域社会における歩行予測因子を再検証しました。

方法

研究デザイン

横断研究 ← 評価方法を検証する研究方法としては最も適切とされる研究デザインです。

対象者

LEAPS 3)とFASTEST 4)に参加した脳卒中患者さん合計441名

LEAPSとFASTESTというのは、米国で行われた大規模多施設共同RCTの名称です。LEAPSの結果は、世界で最も権威あるとされるNEJM誌に掲載されております。

組入れ基準

介助を要してでも10m歩行可能かつ、PT介入時にCGSが0.8m/s以下

詳細は、LEAPSとFATESTの主論文参照

データ解析

快適歩行速度、6MWT、Fugl Meyer、BBS、SIS(Stroke Impairment Set)-mobility、SIS-participation、MMSE、FAC(Functional Ambulation Categories)、Age、sex、家族構成、平均歩数(ウェアラブルデバイス利用)などが1年時点での歩行にどう影響しているかROC曲線からAUCを求めることで重み付けを行いました。また、適切なカットオフの選択のために、Younden indexを用いました。

結果

合計441名が対象者となりました。143名はFASTESTから、298名はLEAPSからセレクションされました。Tudor-Lockeらの基準に沿って分類し、43.08%がHousehold、30.39%がmost limited、14.29%がleast limited、12.24%がunlimitedでした。Includeの基準が10m歩行可能(介助は問わず)の方であったため、各評価指標の平均得点は比較的高めになっています。

自宅内にとどまるか?それとも屋外歩行も可能か?

自宅内にとどまるかどうかを判定する最も優れた予測指標として選択されたのは、6MWTとBBSとFugl Meyerの組み合わせでした。

単独因子で予測する場合には、6MWTが最も優れた予測能力を有し、Perryらが推奨していたCGSは6MWTに劣っていました

制限なく屋外歩行可能かどうか?

制限なく歩行かどうかについては、6MWTとFugl Meyer下肢スコアの組み合わせが最も良い指標として選択されました。こちらも、単独因子で予測するならば、6MWTの結果が最も良い因子として選択されました。

考察・研究限界

自宅や地域社会において歩行可能であるということは、脳卒中患者にとって大変に意義深いことです。しかしながら、地域社会におけるその人個人の役割を果たすための移動と考えると、歩行耐久性、バランス、麻痺の程度、また自己効力感、心理的側面といった個人の要素や周囲の環境要素などが複雑に絡み合い、簡単に測定することは出来ません。私達の研究モデルでは、それら全ての要素を組入れての検証は不可能です。

 

過去のPerryらの報告と比較して

今回Fulkらは、Perryらの研究と比較するために予測因子として選択されなかったとしても、快適歩行速度についてどの程度の予測能力があるのかを確認しました。

そうしたところ、自宅内生活に留まるかそうでないかについては0.49m/s、制限なく屋外歩行可能かどうかについては0.93m/sが基準になることが分かりました。これはPerryらの基準よりもより厳しくなったということになります。

 

臨床での利用方法

この筆者らは、丁寧にも感度・特異度から陽性尤度比(ようせいゆうどひ と読みます)、陰性尤度比まで算出してくれています。尤度比は英語でlikelihood ratioといいます。以下に示す図の中ではLR+、LR-と記載されているものです。これは使い方を覚えれば、感度・特異度など足元に及ばないくらい、非常に強力な武器になります。この記事をきっかけに、ぜひ知ってみてはいかがでしょうか?

上の図は、患者さんが屋内生活にとどまってしまうか、それとも少しでも地域社会の歩行者として活動できるかどうかを示したものです。Predictorsの欄に各種検査の名前が並び、その横に色々と数字が並んでいます。今回の研究で最も予測精度が良かったとされるのは、6MWTとBBSとFugl Meyerの結果の組み合わせです。

6MWTが205m、BBSが48点、Fugl Meyer下肢スコアが27点がカットオフになります。そしてこれら3つを組み合わせた検査の陽性尤度比は4.54、陰性尤度比は0.36となります。

この尤度比を使うためには、以下のノモグラムが必要になります。これは、ある検査の尤度比が分かっている場合に、検査前確率から検査後確率を予測するためのツールになります。

例えば、目の前の患者さんの退院後に地域での歩行がどうなるか分からない。自立しそうかどうか、どっちつかず、フィフティ・フィフティの状態にあるとします。そこで、今回の6MWTとBBSとFugl Meyerを測定して、それぞれカットオフを上回ったとします。6MWTが205m以上、BBS48点以上、Fugl Meyer下肢スコアが27点以上の場合ですね。この場合、この検査が陽性となり、陽性尤度比を利用します。陽性尤度比は4.54でしたね。

真ん中のLikelihood Ratioの欄で4.54あたりにチェックをいれて、事前確率(どっちつかずで50%)と線を結びます。その線を結んだ先に、検査後の確率があります。この場合なら、検査後確率は80%程度ですね。自立する可能性が高いということが分かります。

逆に、上記3つのカットオフを1つでも満たせなかった場合、この検査が陰性となり、陰性尤度比を適用させます。陰性尤度比は、0.36でしたね。事前確率50%で陰性尤度比0.36の場合の検査後確率は25%程度でしょうか。ほとんど自立することはなくなりました。

以下の図の赤線が陽性尤度比の結果青線が陰性尤度比の結果になります。

 

 

同じように、制限なく屋外歩行可能かどうかについても、6MWTが288m以上、Fugl Meyer 27.6点以上の結果次第で、陽性尤度比2.75、陰性尤度比0.40の検査として利用できます。

 

 

 

まとめ

脳卒中患者さんの歩行予後予測の方法の1つとして、紹介させていただきました。ただし、本文の考察にもありますが退院後の地域社会での歩行はあまりにも複雑なもので簡単に予測できるものではありません。それこそエビデンスでは対応しきれない範囲かと思います。理学療法のアートの部分で個別症例について細かな検討を行っていく必要があると思われます。

 

【参考文献】

1) Physical therapists’ perceptions and use of standardized assessments of walking ability post-stroke.J Rehabil Med. 2011.

2)    Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995

3) Body-Weight–Supported Treadmill Rehabilitation after Stroke. N Engl J Med. 2011

4)   Foot Drop Stimulation Versus Ankle Foot Orthosis After Stroke 30-Week Outcomes. Stroke. 2013

5) Fugl-Meyer Assessment of Sensorimotor Function After Stroke-Standardized Training Procedure for Clinical Practice and Clinical Trials-. Stroke. 2011

 

 

 

 

 

 

 

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