EBPには、プロセスが存在します。そのプロセスについて紹介します。
目次
EBPのための手順
Evidence-basedなPTのための手順は決まっています。手順自体は考える必要はありません。
EBMと一緒です。とても賢い先人たちのおかげです。以下に上げた5つのstepがEBPの手順です。
step1 疑問(問題)の定式化
step2 情報収集
step3 情報の批判的吟味
step4 情報の患者への適用
step5 step1~step4のフィードバック
step1 疑問(問題)の定式化
まず、何はともあれ臨床上で自分が疑問に思っていること(リサーチクエスチョン)を知る必要があります。これが無いと情報収集もクソもありません。
その際、PICOを利用すると疑問点を簡潔に誰にでも理解しやすい形でまとめることが出来ます。
PICOはそれぞれ、
P: Patient
I : Intervention(E:Exposure とすることもあります)
C:Comparison
O:Outcome の略語で
P:どんな患者が
I:とある治療/検査をしたら
C:他の治療/検査と比べて
O:結果がどうなるか
を表したものです。
例えば、最近のPhysical Therapyにこんな論文がありました。
PHYS THER January 2016 96:81-89
これは、タイトルがそのままPICOのような形になっているのでわかりやすいですよね。
では、PICOでまとめてみましょう。
P:大腿骨頚部骨折患者に対して
I:skilledされた介護施設における訓練量の増加は、
C:そうしない患者と比べ
O:患者のアウトカムを改善させるか?
結果として、アウトカムの有意な改善には至らなかったようですが、批判的吟味してないので、この論文がどの程度のモノかは不明です。
この論文筆者は、『私は、介護施設に勤めてるけど訓練量を多くすれば患者さん良くなる気がするなぁ、きっと訓練量を多くすると良くなるんだろう』っていう仮説の元に研究して、その結果仮説が否定されたのか、『最近のリハビリって365日とか言って訓練量を多くすることを推奨してるけど、俺の施設の患者だと変わんないなぁ、本当に多くしたほうが良いのかな?』っていう仮説があったのか、どうなんでしょうね。
また、臨床において多くのPTが感じていた臨床的疑問を研究に結びつけたことで有名なのが、現在、理学療法学の編集長を務める京都大学教授の市橋則明先生ですね。日本理学療法士協会が主催する彼の人気講習会、『下肢の運動学と理学療法』は、なかなか応募が通らないと聞きます。
『ストレッチングはいったいどれだけの時間やれば効果的なの?』
『廃用性筋萎縮を予防するための効果的な運動量は?』
『SLRとかブリッジ動作とかベッドサイドのトレーニングでやってるけど、どれくらい筋肉使ってるの?』
『基礎運動学の教科書見たら、主動作筋って2つも3つもあるけど、本当の主動作筋、どれやねん!?』
などなど、運動器疾患の患者さんや廃用リハビリテーションを実施している臨床家は、ある程度知識としてはみなさんご存知のことと思います。この先生からは目の前の現象に対して本当にそうなのか!?という疑ってかかるという姿勢が大切なのだと、気付かされます。
凹凸の法則について、学会などで市橋先生と徒手療法の幹部の先生がバトルしていた時期は面白かったですね笑。
もう一つ大切なのは、リサーチクエスチョンには種類が存在するということです。
種類は以下の通りです。
頻度:ある疾患の罹患率や発症率
診断:ある診断法の診断能
予後:ある疾患の平均生存期間など
治療・予防:ある治療法の治療・予防効果
害:ある治療法による副作用
例えば、脳卒中の患者さんに歩く練習してるけど、これって本当に患者さんの歩行能力を良くしているの?
というクエスチョンは【治療・予防】のカテゴリに入りますよね。
ラセーグテストってどのくらい腰椎椎間板ヘルニアを見つけられるの?というクエスチョンであれば、【診断】というカテゴリに入るでしょう。
さらに、それぞれのリサーチクエスチョンを解決するための研究デザインはそもそも異なっているということも知ってください。
以下にそれぞれのクエスチョンを確かめるための最も適切なデザインを記述します。
頻度:横断研究
診断:横断研究
予後:コホート研究
治療・予防:ランダム化比較試験
害:ランダム化比較試験,コホート研究,症例対照研究
先ほど挙げた、治療・予防カテゴリのクエスチョンであれば、それを確かめるための最も良いとされる研究デザインはランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)により確かめられた研究論文です。
ここはしっかりとおさえておかないと、おかしなことになってしまいます。大切なところです。
何が言いたいかと言うと、エビデンスレベルが高いからって何でもかんでもRCTが良いというわけではないということとです。
皆さんの周りにも、いませんか?RCTじゃないとダメみたいに思ってる人。EBPってそうじゃないんですよ。自分の臨床的疑問を解決できる研究デザインに沿ったエビデンスを見つけましょう。
この辺の話は、the SPELLというウェブサイトを参照してみてください。総合診療医の南郷先生が作っています。本当にすごい人がいるものです。

step2 情報収集
リサーチクエスチョンが決まれば、次に情報収集に進みます。
ここでは、万人に受けるように、脳卒中片麻痺について1つリサーチクエスチョンを出してみようと思います。(step1で示した疑問とは違うものにしましょう。)
脳卒中片麻痺に対するボバース法って、やってる施設も少なくないけど本当に患者さんを良くすることが出来るの?
これをstep 1のPICOで、まとめてみます。
P:脳卒中片麻痺患者
I:ボバース法に基づく理学療法を行うと
C:その他の介入法に比較して
O:患者さんの歩行やADLを良くすることができるか?
アウトカムに何を設定するかは、その人の臨床的疑問によりますが、上記した”患者さんを良くする”と漠然に考えた時には、やはりその患者さんの生活をイメージしている理学療法士が多いと思いますので、歩行やADLといったアウトカムを設定してみました。
上記を臨床的疑問の解決のための情報収集を行ってみたいと思います。
さて、どうやって、どこから情報収集をするか?
色々な情報収集方法がありますよね。
例えば、職場の先輩や同期、また学校時代の友人に聞く、教科書を読む、関連する学会に参加する、偉い先生たちがまとめてくれたガイドラインなど(二次資料)を確認する、などなど収集方法はさまざまです。
一番ラクなのは、先輩や同期に聞くことですね。
その先輩や同期がEBPの概念をしっかりと理解して/意識して臨床に当たっているのであれば、めちゃくちゃ効率の良い情報を提示してくれることが期待できます。
論文や教科書から文字で情報を得るのと違って、臨床で同じような患者さんをみている理学療法士を経由しているわけなので、情報が良い方向にfilteringされている可能性が高いです。
時間もかからず、かつ直接顔を合わせて口頭伝達されるという点からも最強に理解が進みやすくなります。
ただし、それが本当に正しいかを確認することは難しいです。
元の情報を誤って解釈しているかもしれないし、伝達の際に間違って伝わることもあるでしょう。また、その先輩の立場によっても答えが変わることが容易に想像できますね。
確かなのは、やはり自分で自分の感じたリサーチクエスチョンを解決してくれそうな原著論文に当たり吟味・解釈することですが、これはとても時間がかかるのが厄介です。
リハビリテーションは医療保険の枠組みの中においては、時間により診療報酬が定められています(20分間患者とマンツーマンで理学療法を提供すると◯◯点)ので、臨床家は、やはり皆忙しいですよね。ですから、出来るだけ時間を節約したいところです。
臨床にインパクトを与えるような研究論文、そして皆が同じように疑問に思っている答えになりそうな研究論文というものは概ね使用言語が英語なので、英文解釈になおさら時間がかかります。
そのために、基本的には二次情報(ガイドライン、コクランライブラリ・UpToDateなど)から入っていくのが良いと思います。
こういった二次資料は、その分野の偉い先生たちが、過去のエビデンスを網羅的に時間をかけて汗水たらして編集・出版してくれている、本当にありがたいものです。ぜひ利用しましょう。
それでは、上記リサーチクエスチョンに関するガイドラインを参照してみましょう。ガイドラインも多数存在しますのが、理学療法士がネット環境から比較的アクセスしやすいと思われる以下のガイドラインを参照してみましょう。

理学療法診療ガイドライン2011(日本理学療法士協会)
Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation
Guidelines for Adults Stroke Rehabilitation and Recovery: A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association
それでは、まず日本理学療法士協会が編著した、理学療法診療ガイドラインから見てみましょう。
脳卒中のガイドライン作成の班長は、吉尾雅春先生です。あまりに有名な先生なので皆さんご存知のことと思います。脳卒中リハでこの先生を知らない人はいないでしょう。
さて、中身を見ていくと、ボバースアプローチという項目があります。ただし、ガイドラインで取り上げられている項目であるのに、推奨グレードの記載が一切ありません。
これってガイドラインとしてどうなんでしょうか。
良く読むと最後に、以下のような記載があります。
以前は会員のみマイページから閲覧可能でしたが、現在は検索すれば誰でも閲覧可能な形になっておりますので、引用・公開します。
我が国における理学療法士の誕生は欧米で神経生理学的アプローチが盛んになってきた時代と重なっていることから,ほとんどの理学療法士の興味はそのアプローチへと向かった。時代の流れとともに多くの体系は表舞台から消えていったが,脳卒中においてはボバースコンセプトによるアプローチが多くの支持を得て,一時期は我が国の脳卒中理学療法の中心的存在になった。1970 年代頃まで多くみられた片麻痺患者の反張膝をはじめとする極端な異常歩行があまり見られなくなってきたのも,そのような教育を受けてきた我が国の理学療法士の存在に依るところが大きいと考えられる。しかし,一方でボバース概念については懐疑的な見方も多く,ここでも示すように,その効果については否定的な論文が圧倒的に多い。運動療法は理学療法の核として位置づけられるものであり,その効果についてデータとして示すことが十分できなかったことは残
念なことである。ただ,ボバース概念で示されるアプローチは多岐にわたっており,そのいずれが効果的であるのか,あるいは効果がないのか,ほとんどの論文の中では明らかにされてはいない。故に,本ガイドラインではボバース概念をひとまとめにして効果の有無について述べることは控えることにした。
ボバースアプローチをはじめとする脳卒中の運動療法が有効であることを明確にしていくためには、促通反復療法のように確かな研究法に基づいて証明する必要がある。それを求められ続けられて数十年が経過し,未だに実行されていない現状にある。このまま経過することは好ましいことではない。このことは認知運動療法についても言えることである。臨床では多くの理学療法士がその体系に取り組んでいるようであるが,残念ながら効果を示す論文に出会うことはなかった。そのためにこのガイドラインでは取り上げることを断念せざるを得なかったのが実情である。脳卒中理学療法診療ガイドラインより
ボバース法は、昔は手技的な側面が主張されていましたが、現在は、概念化しているようでボバース法という呼び方が良くないということを吉尾先生は言っています。(認定理学療法士資料より)
話がそれました。
これでは、このガイドラインは臨床的疑問を解決するために参考になりません。
次のガイドラインに行きましょう。
Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation です。

根拠に基づく脳卒中リハビリテーションレビューです。
奈良県にあります畿央大学の 松尾篤先生が日本語訳をウェブサイトで公開してくださっておりますが、翻訳は14版までとなっております。現在の最新版は17版でありますので、日本語訳された14版はかなり古い情報になっています。
今から確認する方は、是非英語版の確認をお願いします。ただし、大筋においては、理解を早めるために有用であると感じます。松尾先生方、お忙しい中、このような情報をどうもありがとうございます。
ボバースアプローチについては、Chapter 9 Mobility and the Lower Extremityを参照しましょう。
全169ページという膨大な量ですが、始めの方のApproaches to Therapy(治療の方向性)という項目の中の、The Restrative approach(回復アプローチ)という中に、ボバースアプローチについての記載があります。
先ほど述べましたが、治療・予防について確認する最も適切なデザインは、RCTでしたね。
世界を見渡してみると、多くの研究者がボバース治療についてのRCTを実施してくれていることがわかります。以下に翻訳したものを引用します。
ボバースアプローチを評価したランダム化比較試験のまとめ (PEDro score順に)
Langhammer and Stanghelle et al(2000、2003)
N=61、PEDro score 8
グループ①:運動再学習プログラム群 (MRP:Motor Relearning Programme)
グループ②:ボバース治療
【結果】
- ボバースグループで有意な入院期間延長
- Motor Assessment Scale に関して、MRP群で有意な改善をしたものの、1年・4年後のフォローでは有意差なし
- Sodring Motor Evaluation Scaleに関しては MRPで有意な改善を示したもののやはり1年・4年後のフォローでは有意差なし
- Life Quality Test においては、有意差なし
Mudie et al (2002)
N=40、PEDro score 8
治療グループ① 課題特異的リーチ課題
治療グループ② ボバース
治療グループ③ 視覚的フィードバックを利かせたバランストレーニング
コントロールグループ:治療介入なし
【結果】
座位バランスにおいて短期的にボバースアプローチが有意な改善を示すも長期的な座位バランスには有意差なし
Brock et al (2011)
N=26、PEDro score 7
治療グループ①ボバース+課題練習追加
治療グループ②課題練習のみ
【結果】
6分間歩行試験に有意差なし
Van Vliet et al (2005)
N=120、PEDro score 7
治療グループ① 運動再学習プログラム
治療グループ② ボバースアプローチ
【結果】
Rivermead Motor Assessment、Motor Assessment Scaleに有意差なし
Wang et al (2005)
N=21、PEDro score 7
治療グループ① ボバースアプローチ
治療グループ② 整形外科的アプローチ
※ここで言う整形外科的アプローチとは、患者の意思により関節運動が引き起こされるように必要に応じて行われる他動~抵抗運動、寝返り、起き上がり、移乗、歩行と行った特異的な動作の反復練習のことを指しています。従来の運動学習アプローチに近い内容です。
【結果】
Motor Assessment Scale(MAS)、Stroke Impact Scale、Berg Balance Scoreともにボバースアプローチが有意に改善
Richards et al (1993)
N=27、PEDro score 6
治療グループ①ボバースアプローチ
治療グループ②ボバースアプローチと従来型の理学療法のミックス
治療グループ③従来型の理学療法
【結果】
バランス能力、歩行速度に有意差なし
Gelber et al (1995)
N=20、PEDro score 5
治療グループ①ボバースアプローチ
治療グループ②従来型の理学療法
【結果】
Functional Independence Measureと入院期間に有意差なし
Pollock et al (2002)
N=28 PEDro score 5
治療グループ①ボバースアプローチ
治療グループ②ミックス
【結果】
課題遂行時の重心対称性に有意差なし
Stern et al (1970)
N=62、PEDro score 4
治療グループ①ミックス
治療グループ②神経生理学的アプローチ(ボバース)
【結果】
Kenny Institute of Rehabilitation Activities of Daily Living scaleに有意差なし
Chung et al (2014)
後ろ向きコホート研究
N Start=45、N End=45
治療グループ①運動学習アプローチ
治療グループ②ボバースアプローチ
治療グループ③機能的アプローチ
【結果】
Berg Balance Scale、Modified Barthel Index、Modified River Mobility Indexいずれにも有意差を認めなかった。
うーん、、、ボバースアプローチが有効であるという研究結果は少ないですね。
ちなみに、ボバース治療に根拠があると言うセラピストは、上記したWang et al (2005)らの研究結果をエビデンスとして提示します。
私もボバースコンセプト講習会に参加したことがありますが、そこのインストラクターの先生も、根拠があるとして、この論文を提示しておりました。しかし、この論文は私が吟味した結果、ちょっとトンデモナイものでした。step3で述べます。
最後に、Guidelines for Adults Stroke Rehabilitation and Recovery: A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Associationを見てみましょう。
ボバースアプローチに関する記載は以下になります。
レベル | クラス | |
脳卒中急性期における神経ファシリテーションの効果は他の治療法に比較し効果は明らかにされていない。 | Ⅱb | B |
LanghammerとStanghelleによって2011年に出版されたシステマティックレビューによれば、運動機能の改善が示されたが、他の治療アプローチより優位性は無かった。
また、2007年のシステマティックレビューにおいても同様のような結果であり、歩行能力の改善において、ボバースアプローチが他のアプローチと同等かそれより劣っていると結論付けられた。
この情報収集の結果からは、ボバースアプローチを選択しても患者さんの運動機能、歩行、ADLなどにおいて従来の運動再学習アプローチに比べ、概ね同等の結果が得られるということがわかりました。
ですから、ボバースアプローチだからダメだということは無さそうです。ただし、他のモノに比べ優れているというエビデンスはほぼ皆無、そして歩行改善において効果は同等かそれより劣っているというガイドラインのもありますので、そこはしっかり押さえておく必要があります。

step3 情報の批判的吟味
step2の後半で触れた、Wang et al.の研究論文を確認してみましょう。
多くの研究者がボバースアプローチと従来型運動再学習アプローチに有意差なしと結論づけている中、Wang et al(2005)は、Bobathアプローチが有意に効果アリという結論に至っております。
なぜ、多数の研究論文が有意差が無いとしている中で、この研究者たちの結果だけ、有意差が出たのでしょうか?皆さん、気になりませんか??
ここでは、批判的吟味の方法として日本理学療法士協会が推奨している項目を確認してみましょう。
以下を確認しましょう。
- 研究デザインは適切である (checkedランダム化比較試験である)
- 比較した群間のベースラインは同様である
- 盲検法(ブラインディング)されている(一重盲検・二重盲検)
- 患者数は十分に多い
- 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
- ITT解析している
- 統計的解析方法は妥当である
- 結果と考察との論理的整合性が認められる
項目 | 吟味 |
研究デザインは適切である(ランダム化比較試験である) | ランダム化比較試験であり、◯ |
比較した群間ベースは同様である | 年齢などについては記載あるも肝心の運動機能が両群等質であったかの記載がない ×
|
盲検化されている | 単盲検 ◯ |
患者数は十分に多い | △
統計学的に適当なサンプルサイズがどの程度かの検証はされておらず、かといって少ないわけでは無い |
割付時の85%以上が効果判定の対象 | ◯ 脱落者なし |
ITT解析している | ◯ |
統計学的解析法は適切 | × 適切な統計手法でない |
結果と考察の論理的整合性 | × 結果に誤りがある可能性あり |
PEDro scoreで7点とったものの、結果はあまりよろしくありません。
特に比較した群間の運動機能に等質性が確保されているかどうかの検討がない、かつ統計学的解析に問題があることはRCTのメリットを根幹から崩してしまっています。
これについては、カンバーランド病院の理学療法部門のスタッフ R Mepstedさんから同雑誌に翌年、letter to the editor として批判的な投稿があります。

筆者が翻訳し、喋り方など脚色しましたが、内容は間違っていないと思います。
残念ながら、このMepstedさんの批判に対してWang et al. からの反論・追加の研究論文などは出ていないようです。
つまり、この論文は批判的吟味の結果、この研究論文により示されたボバースアプローチが効果的であるという結果は統計の使用法の誤りから全く信用のならないものとなりました。
批判的吟味を行うと、こういうのがあるのでRCTだから良いとか言えないのです。これPEDro 7点ですよ!?
ボバースインストラクターの先生はボバース法に効果があると主張するのは構いませんが、そのエビデンスとして、この論文を提示することは二度と止めていただきたいと思います。
以下のブログの著者もこのWang1らの論文を有効であると著者は私見を述べていますが、誤った情報発信であると考えます。
上記で吟味したように、この論文でBobath法の効果を述べることは出来ません。
https://sukecchi2003.blogspot.jp/2016/03/blog-post.html
step4 情報の患者への適用
step3で確認したように、ボバース法には効果があるとする質の高いEvidenceはありませんでしたので、積極的に利用することは控えようと思うでしょう。EBPのプロセスに従うのであれば。
ただし、ボバース法が本当に効果が無いのかどうかはわかりません。今までの研究が真実を捉えきれていない可能性だって捨てきれませんから。
でも、ボバース法が効果ある治療と考える医師・理学療法士がいるのであれば、ぜひ良いデザインの研究で効果を示して欲しいところです。
決して勘違いしてほしくないのは、Bobath法が従来の理学療法より劣っているということが言いたいわけではありません。ガイドラインなどでは結果は、概ね同じようです。従来よりも優れていると主張することが違うのではないかと言うことです。
step4はそう難しくありません。前の記事にも書きましたが、EBM-triadを意識することです。
step3までで、批判的吟味された情報(武器)を手にしています。でもそれを押し付けることがEBPでは無いですよね。例えば、自分が確認したエビデンスとなる研究論文の対象者が若年者対象の研究であったとして、自分の目の前の患者さんは高齢者であった時、そのエビデンスの価値は一気に激減します。誰にでも効果のある武器というものは、無いのです。
相手によって、武器を変える必要があります。
その他、その患者さんの身体機能、本人や家族がどう考えているか、何を目標にしているか、今までの生活歴、社会的な背景とか、内部障害の程度によりどのくらいの運動量に耐えられそうかとか、まぁ、色々考えますよね。
それらを考えて患者さんの理学療法を実施するということが、情報の患者への適用を意識するということです。
ですので、情報収集して批判的吟味したエビデンスを利用せずに、自身の臨床経験の中で目の前の患者さんに対応することも、もちろんあり得ます。ただ、それでも、しっかりとしたEBPです。
ただし、批判的吟味されたエビデンスをしっかりと自分の中に蓄積していることが重要なのです。それらを自分の中に持ちつつ選択するかどうかを選べなければなりません。
step5 step1~step4のフィードバック
step1~step4を繰り替えします。自分が考えた理学療法で目の前の患者さんがどのような結果に至ったのか?
どこか、改善すべき点はなかったか?あるとすれば,どのように改善すれば良かったか?などといったことを考えます.
以上が簡単ですが、EBPのプロセスになります。長文になってしまったため、煩雑な点もあるかもしれませんが、大筋ではこのような感じになります。
このような長文を最後までご覧いただき誠にありがとうございました。ご指摘有りましたらコメントいただけると幸いです。
ワタシ、勉強になるからこの論文が掲載された雑誌とても好きネ。
でもちょっと、待ってクダサイよ。Wangさんたちの論文には、物申したいデス。
今回の治療効果を見る時に、初期評価と最終評価の差を測定することで検証しようとシマシタネ。でもですね、MASのような非線形データを利用する場合にはこれは良くないんですよー!
介入前にデスネ、下肢のBr.stageがⅣ or Ⅴであった患者さんでは、Bobathの方が3倍も数値の改善をもたらした(Why!?It doesn’t make sense!)という結果になってイマスが、ちょっと待ってクダサイ。
そもそも治療前の段階でBobath法を受ける患者の検査値の方が明らかに悪そうでスヨ!そっちの患者さんの方が良くなる幅がアリソウじゃナイデスカ!そのことを無視してイマスネ!
最終的には整形外科的アプローチの患者の方が良好なスコアを叩き出していることを治療後のスコアの差でなく、初期と最終のスコアの変化で分析シタコトモ頂けません!ソノヨウナ解析の方法では、統計的に有意な差が出ない治療であっても、差があるように誇張して示してしまう可能瀬があるという統計学の側面を無視してイマス!
より厳密に分析しないのであれば、今回の結果に統計的に有意な効果は示されていないとワタシは考えマス。